2019年8月:準備期間
『光を追いかけて』のメインのロケ地は、秋田県井川町。スタッフはクランクインの1カ月以上前、8月はじめには現地入りし、撮影の準備に取り掛かった。
劇中で使用する旧型のコンバインの整備と使い方の講習を受けると、シンプルな操作性のためすぐ動かせるようになる。しかし実際に稲刈りとなると、稲の高さや田んぼの複雑な形などもあって、そう簡単にはいかない。スタッフの不安そうな表情を察したか、指南役の農家の方が撮影にも立ち会ってくれることとなる。
9月1日
主人公の彰たちが通う「鷲谷中学校」となる、旧井川小学校の体育館では、物語の核となる巨大看板を制作。秋田公立美術大学の皆さんにご協力いただく。
稲わら使用のため、粉じん対策でマスクを全員が着用。見るからに怪しげな風体だが、まさか半年後にマスク姿が全国のスタンダードになるとは…。
9月2日
クランクインが近づき、準備も大詰め。スタッフ全員が汗だくとなり、Tシャツに塩の結晶を浮かばせながらの作業が続く。
時には効率が悪かったりお金が余計に掛かったりなどもするが、試行錯誤しながら一歩一歩進めていく。
9月7日
この日は地元キャストの衣装合わせ。その前に、この作品に賭けるホットな思いを成田洋一監督が語る。監督は生まれ故郷である秋田に希望を届けたいという願いから、3年以上かけて準備を行ってきた。そんな監督の激アツなトークに魂を揺さぶられ、地元キャストや東京から来たスタッフは一丸となり、「いざクランクイン!」と大いに意気が上がる。
9月8日
地元キャストの中学生が、自転車で登場。旧井川小学校の教室で、撮影前のリハーサルが行われる。実際の撮影場所でキャストがほぼ勢揃いしてのリハーサルなど、なかなか出来ることではない。
リアルな現役中学生だからこそ、用意された台詞に生身でぶつかり、まずはストレートに受けとめる。そこに籠められた意図を探りながら、言の葉を自分のものとすべく、各自が真剣な表情で取り組んでいた。
9月9日
撮影の無事を祈る安全祈願。そして地元の皆さんとの顔合わせを行う。
成田監督は600本以上の作品を手掛けた、CM界のベテラン。今回のスタッフは、CM畑と映画畑の混成軍になっている。同じ映像関連であっても、はっきり言って異文化同士。このコラボでどのような“化学反応”が起きるか?期待が高まる。
9月10日
遂にクランクイン!
スタッフ全員が厳しいスケジュールであることを認識しているためか、動きに無駄がなく、順調な滑り出しとなった。
不登校のヒロイン真希の大切な世界である、屋根の上の撮影。本作のキーとなる重要なシーンだが、スタッフが屋根に乗り過ぎでギシギシとイヤ~な音がする。
特段の協力をしていただいている井川町役場の皆さまの服装が、赤・青・黄と三原色で信号機と同じだったのがおかしくて、記念にパシャリ。
撮影初日からヒロイン真希のおじで農業を営む秀雄役の柳葉敏郎さんの出演シーンが目白押し。浮足立っている若いスタッフに気軽に声をかけて下さるなど、さすがの気遣い!そこに居るだけで現場に落ち着きが生まれるとは、さすが長年俳優として第一線を走ってきた方は違うと、ただただ感じ入る。
9月11日
朝から天気予報、雨雲レーダーとにらめっこ。
降雨の合間に1シーンだけ撮って、日中の撮影は中止に。ところがスタッフ、キャストが宿舎に戻ると、雨がぴたりと止む。どの天気予報を見ても「雨が強くなる」筈だった上に、雨雲レーダーも真っ赤だったというのに…。撮影スケジュールを立てる助監督の眉間に、深~い皺が刻まれる。
中止したシーンは、もちろん新たなスケジュールを組まなければならず、撮影2日目にして早くも後半のスケジュールが心配に…。
9月12日
快晴!田んぼのシーンはモニターを覗かずとも、素晴らしいカットが撮れていることがわかるほどで、スタッフの表情も自然とほころぶ。しかしスケジュールはパンパン。わかってはいるが、太陽は待ってくれない。
秋田はすでに秋の気配が濃くなっており、陽が落ちるのも早くなってきた。ギリギリ撮れる時間まではと、日没まであぜ道で粘る。
ドローンを駆使しての田んぼの空中撮影も実施。
9月13日
日の出から日没までぶっ通しで撮影。厳しいスケジュールを、何とか乗り切る。
スタッフのみんなさんは余裕のない現場なのに、文句ひとつ言わずに奮闘してくれる。
9月10日~14日
田んぼのシーンの撮影基地となったのは、地域の公民館。
昼食は基本ロケ弁…のところが、地元の皆さんが連日ご厚意で炊き出しを実施。お陰様で芋煮、天婦羅うどん、そうめんなどからスイカ、キュウリ、饅頭などのデザートまでバラエティに富んだランチタイムに。
厳しいスケジュールでも笑顔の絶えない現場は、地元の皆さんの支えがあったからこそ。
そして今回の撮影は、2日目の雨以外はほぼ快晴。日本列島を台風が2つも通過したのに、秋田はスルーしてくれた。成田監督曰く「僕の撮影現場はたいてい晴れるんです」。
9月14日
お天気はこの日も絶好調で、本日までの撮影予定を何とか消化!懸案の屋根の上のシーンも、ほぼ撮り終わる。
ハタッと気付くと、撮影現場近くのあちこちで、稲刈りが始まっている。収穫後の田んぼはガラリと風景が変わるので、映像がつながらなくならないか、不安でいっぱいに。
田んぼのシーンは、まだかなり残っている。周囲の稲刈りとの競争になりそうだ。
9月15日
遂に、教室シーンの撮影に突入!「鷲谷中学校」こと旧井川町小学校の校舎で、担任教師を演じる生駒里奈さんがクランクイン。
オーディションを経て出演を希望した方々、そして井川町中学校の生徒の皆さんにも協力していただき、学校生活のリアルな雰囲気が醸し出される。成田監督の細かい指示に真剣に耳を傾けて集中している“鷲谷中生徒たち”の表情には、思わず感動してしう。
この日の撮影予定は、台本にして約15ページ、80カット…。映画やドラマのスタッフ経験者なら思わず、「殺す気か!?」と叫びたくなる分量。まさに毎日綱渡りが続く状態ながらも、全力で駆け抜けることができた。
この日のサプライズは、我らが柳葉さん差し入れの秋田名物・稲庭うどん!突然目立つ色のトレーラーが来たのでびっくりしたが、スタッフ・キャスト一同の元気の源となった。
9月16日
毎日深夜までの撮影が終わっても、翌日の準備がいっぱい。強靭な体力を誇る助監督も、ふとした瞬間に寝落ち…。
9月17日
秋田名物“きりたんぽ”をふるまうシーンの撮影日。脱走した鶏をつかまえるのも、きりたんぽを焼くのも、鶏ガラから出汁を取るのも、みんな監督補佐の高明氏の仕事となっている。何でもできる人だからと、あらゆる仕事が押し寄せるわけだが、体力が限界に近づいている中で、普段温和なこの方の口からも、愚痴がチラチラと漏れる…。
厳しいスケジュールの中で、感情をコントロールし続けるのにも限界があることを痛感した一日だった。
9月18日
田んぼの真ん中で撮影中は、カメラのフレームに入らないように、車両は機材とスタッフを運んだら、遠く離れた駐車場行き。
そこで大活躍するのが、自転車。トイレやちょっとした機材を取りに行くのに、欠かせないアイテムとなる。
この日は、柳葉さんの芝居場があり。一流の俳優の演技を間近で目の当たりにする僥倖に、打ち震える。
「今日の芝居を見ただけでも、この作品に関わった意味がある」監督補佐の高明氏の名言に、ただただうなずく他はなかった。
そんな中で、タイムリミットが迫ってくる。ロケ用にお借りした田んぼの隣でも、そろそろ稲刈りが始まる模様。
9月19日
この日は田んぼで大勢の方々が出演するシーンの撮影。秋田だけでなく関東や関西からも本作出演のため、多くの若者たちが駆けつけてくれた。目がキラキラ輝いているそんな方々と撮影を進めるのは、それだけで清々しくも楽しい。1日の撮影が終わったら、ぜひ秋田を楽しんでから帰途について欲しい。
我々は深夜まで撮影を行い、明日は午後スタート。
9月21日
連日のナイト撮影で、スタッフも疲労困憊。そろそろ限界が近づいている…。
9月22日
旧井川町小学校で「鷲谷中学校」後半ブロックの撮影。
台風が秋田を直撃しそうとの報で、風が強い。どうか無事撮影が出来るようにと、神頼み。
この日は監督補佐の高明氏の誕生日を、お昼休みにお祝い。詳しい年齢は秘すが、本人曰く見かけよりは若いとのこと。
中川翼くん、長澤樹さん、中島セナさん、生駒里奈さんらが揃って、この作品のクライマックスとも言えるシーンの撮影。成田監督のこだわりは強く、なかなかOKが出ない。結局予定を大幅にオーバーしたにもかかわらず、撮りきれずに後日に持ち越しとなる。
映画を完成するためには、必要な生みの苦しみと言うべきか。しかしこの難局を乗り切れば、クランクアップも見えて来る!
9月23日
この日も、お天気の神様に感謝。雨が時々ぱらつくものの、ギリギリ躱しながら撮影は順調に進行する。
今日で、生駒里奈さん、中島セナさんの撮影が終了。
9月25日
本作には関西や九州の専門学校、大学から、20歳前後のインターン生たちが、参加。撮影が進むにつれて、立派な“映画人”としての佇まいを纏い始めた模様。
暗闇でお弁当をむさぼる姿も、いつしか様になってしまった…。
9月26日
稲刈りのシーンは、最新型のコンバインが活躍して無事撮影が終わる。本日で俳優さんの出番はすべて終了となる。
体力も気力も次第に擦り減っていく中で、それと引き換えにしても余りある贈り物をもらっているかのように感じる。消耗して失ってしまう前に、一歩踏み出す。目の前のことを頑張って、更にその先を見据えていくために何をしなくてはならないのか?映画をつくり続ける限り、こうした自問自答は永遠に続く。
9月27日
遂にクランクアップ!17日間走り抜けた。
井川町農村環境改善センターにて打ち上げ!撮影中色々あったが、終わりよければすべて良しで、一同破顔一笑!成田監督も感無量のご様子だった。